漢方医療に関するあれこれ
漢方のイメージ
・慢性疾患に用いるもの
・効くまでに時間がかかる
・副作用がない
→ かぜなどの急性疾患に用いられる製剤もあります。
→ こむら返りに芍薬甘草湯を飲むと5分程度で効きます。医師がマラソンの前に飲むほど効果が実感されている漢方薬のひとつです。
→ 漢方薬にも副作用はあります。
副作用と紛らわしい症状に、瞑眩(めんげん)という概念があります。長患いの後、服薬すると症状が一時的に悪化する現象です。長期化していた病が改善する途中経過にみられるが、その後回復すると言われています。
証とは
証とは、現代風に言えば診断名に近いのですが、少し異なります。体質や症状、診察所見などを総合して得られる表寒証、陰虚証という状態像の表現と、処方の効きやすさを表す柴胡剤の証、柴胡加竜骨牡蛎湯証という処方名の表現があります。現代の病名とは部分一致のため、異病同治、同病異治と言い、現在の異なる病名に同じ漢方薬が効くこともあれば、アトピー性皮膚炎という同じ病名でも体質や皮膚の状態、季節により使う漢方薬が異なったりします。
風邪と漢方
風邪症状に対しては、自然治癒する病気に薬は必要ないとの考え方もあり、総合感冒薬を一律に処方する事への戒めでもあります。漢方では風邪につかえるエキス製剤が30種類以上あり、体質や、病気の時相により変化する証によって使い分けが利きます。
昔から人は感染症の地域的な流行の被害にあい、それを傷寒と呼んできました。後世に受け継がれた漢方薬は、症状緩和以外に、自然免疫の活性化、免疫反応と体液バランスの調整などに役立ってきたと思われます。
当院で風邪の初期に用いる漢方
葛根湯、葛根湯加川きゅう辛夷、小青竜湯、桂枝湯、麻黄湯、麻黄附子細辛湯、桔梗湯、小柴胡湯加桔梗石膏、香蘇散、麦門冬湯、半夏厚朴湯、麻杏甘石湯、川きゅう茶調散、辛夷清肺湯、清肺湯、大防風湯、桂枝加芍薬湯、五苓散、柴苓湯
症状が続く場合に変法する漢方
柴胡桂枝湯、小柴胡湯、柴朴湯、五虎湯、滋陰降火湯、滋陰至宝湯、参蘇飲、荊芥連翹湯、補中益気湯、茯苓飲合半夏厚朴湯、人参湯・真武湯の合法
小児と漢方
症状緩和や、体質に合わせて効果が期待できる漢方薬を処方しています。子供は本能的に体が必要とするものが分かるようで、エキス顆粒をそのまま水なしで食べてしまう事もあります。症状が改善し必要なくなる頃には、自然と飲まなくなります。
小児に用いる漢方
抑肝散、甘麦大棗湯、小建中湯、葛根湯加川きゅう辛夷、麻黄湯、柴胡桂枝湯、麦門冬湯、柴朴湯、麻杏甘石湯、五虎湯、五苓散、柴苓湯、桂枝加芍薬湯、桂枝加芍薬大黄湯、人参湯、真武湯、柴胡清肝湯、治頭瘡一方など
慢性疾患
証が合う方には効く事が多いですが、最終的には飲まれてみないとわからない事もあります。同じ漢方薬を飲んでも、人により味は異なります。体調に合わないとまずく感じ、逆に苦味の強い製剤でもスムーズに飲める方には効く事が多いので、試しに飲んでみるのは一方です。
服薬期間は、冷えや便秘などで長期に飲まれる方もいますが、体調がリセットされればやめられます。服薬開始までに症状が続いていた期間も重要な因子です。
季節毎に必要性の変わる漢方薬や、女性の場合月経周期に合わせて飲んでいただく漢方薬などもあります。
副作用
漢方薬にも副作用はあり注意が必要です。
長い歴史の中で淘汰されずに残った現在の製剤は、漢方のレシピの中では副作用の少ない優等生集団です。また、エキス製剤は1日用量が体重40~50kg程度の成人に設定され過量投与になりにくいので、通常容量の服用では副反応が出にくいと考えられています。余談ですが、体重が100kgを越える患者様で、麦門冬湯を1回に2包(倍量)では効かないが、3包飲むと著効するという方がいらっしゃいました。
古い話ですが、証を省みずに濫用して間質性肺炎が多発したため、本来有用性の高い小柴胡湯という漢方薬を、広く使うことが難しくなりました。
漢方の証は大事に守っていきます。
まとめ
医療用漢方製剤は148製剤ありますが、当院ではそのうち100製剤程処方させて頂いています。食生活や環境が大きく変わっても、約2000年前の薬が今でも効く患者様と長年に渡り歩んでいます。気逆、気鬱、気虚という証で漢方薬を用いて、メンタル面で落ち着かれる患者様も拝見してきました。これからも大切に後世に伝わってほしいと思います。
1983年に大学の東洋医学研究会に入り、優秀な先輩方の薫陶を受けて以来、40年近く漢方を取り巻く状況をみてきました。長い歴史の中で隆盛と衰退をくり返していますが、最近また使用する医師が増えているようで心強く思います。
ここまでお読みいただきありがとうございます。