漢方診療

鼻副鼻腔症状と葛根湯加川きゅう辛夷

鼻の調子が悪い事に気付かずにいませんか?実は私がそうでした。

40歳で開業して初めて撮った頭部MRIで、副鼻腔粘膜の肥厚を指摘されました。子供の頃から風邪をひくと青っ洟が長引き、鼻をすすって集中力がなくなる時期が続きました。それが誰にもある普通の事だと思って長年過ごしていました。MRIで副鼻腔に器質的な変化があると知って以来、風邪で鼻がつまると葛根湯加川きゅう辛夷を早めに飲みます。タイミングよく飲むと1日、極端な場合1包飲むだけでたまった粘液がすっと出て、長患いしなくなりました。


父親には蓄膿症で手術歴がありました。自分のMRIの結果と合わせ、以下のように考えます。
副鼻腔も線毛上皮と杯細胞を含む上皮で覆われています。線毛を動かすのはモーター蛋白などの複合体です。複合体を形成する蛋白にはたくさんの遺伝子多型があります。遺伝子多型のパターンにより、父や私の粘液線毛輸送機能は、量が増えたり粘度が増した粘液を十分に排泄できなくなるのです。抗生剤治療が不十分だった時代に、細菌感染から蓄膿症となり父は手術をうけました。記憶にある父は手術後も朝洗面所で大きな音を立てて痰を出していました。粘稠性の高い後鼻漏を頑張って吐き出していたのでしょう。

ツムラさんとクラシエさんの顆粒製剤ですが人により好みがあるようです

開業以来、色の付いた鼻水が長引く、父親も鼻が悪いというお子様を沢山拝見します。問診と診察所見から、葛根湯加川きゅう辛夷を処方します。子供ですから漢方薬は飲みにくいだろうと思われるのですが、不思議なくらい飲んでくれるお子様が多いです。中には2歳からなめながら飲んでくれるお子様もいました。鼻が通ると飲まなくなるお子様も多いですが、中には年単位で続けられるお子様もいます。私が子供の頃は、クラスにいつも青っ洟を垂らしている子供がいて、授業中も落ち着きがなかった記憶があります。自分の経験でも、鼻がつまっていると集中力やパフォーマンスが落ちます。学校で落ち着きがないと言われていた小学生の患者様が、長く飲み続けて最難関校に合格されるのを見るにつけ、私も子供時代に出会えていればと思うのでした。


3ケ月以上続く鼻副鼻腔症状や、鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎の薬物治療は、マクロライド系抗生物質の少量長期療法と去痰剤の組み合わせがガイドラインで推奨されています。


一方、そこまでの症状に至る前の段階では、葛根湯加川きゅう辛夷が効く方が多いです。葛根湯加川きゅう辛夷は名前の通り、葛根湯に川きゅうと辛夷を加えた製剤です。保険適応の効能効果は「鼻づまり、蓄膿症、慢性鼻炎」で、鼻閉、鼻漏、後鼻漏などが慢性化した場合に用いられます。
葛根湯は中国の傷寒論が出典ですが、葛根湯加川きゅう辛夷は日本でブレンドされた漢方薬です。鼻症状には人種差があり日本人の鼻副鼻腔症状に合いやすいブレンドと考えられます。葛根湯加川きゅう辛夷が効きにくい病態もあり、漢方では辛夷清肺湯や荊芥連翹湯の方が良い場合もあります。もちろん抗生剤を必要とする病態では、漢方薬にこだわってはいけません。
水っ洟とくしゃみ主体のアレルギー性鼻炎症状にもあまり効きません。

ある日、川きゅうの葉を噛んでみたら、数分経たないうちに鼻の奥から液体が出てきました。それ以来、葛根湯加川きゅう辛夷をよく使うようになりました。

セリ科 川芎(せんきゅう)生薬はその根茎を湯通ししたもの 写真提供:株式会社ツムラ